制作プロデュース

橋本善久

株式会社時空テクノロジーズ代表。東京大学工学部卒。株式会社セガでプログラマーやゲームディレクター、株式会社スクウェア・エニックスにてCTO(Chief Technology Officer)を務め、家庭用ゲームやゲームエンジンを開発。2014年に独立。ビジネスツールやIT教育、ライブエンターテイメントの分野でサービスやコンテンツ開発を手掛ける。ディレクターや技術ディレクターを務めた代表作に「ソニック・ワールドアドベンチャー」「FINAL FANTASY 14 新生エオルゼア」「ディズニー テクノロジア魔法学校」など。


橋本善久さん

ゲームのコンセプト

一般的な液晶ゲームは比較的シンプルで単純なものが多いのですが、楽しみながらしっかり 遊び込めて、おはなちゃんに対して愛着も生まれるようなものにできないかと考えました。 コロナ後の自由にお出かけできる世界を想定して、歩数計機能を入れて100ヶ所を回ってみようと。おはなちゃんと共に全国各地に花を咲かせて、思い出を作って行く旅になります。 おはなちゃんは最初は種の状態から水をやり、お花になったら旅のスタート。食べ物やみずやり、スキンシップや、ミニゲームなど、いろいろなお世話や交流をしつつ、様々な旅の目的地に向かいます。旅先では記念撮影を行いアルバムに写真がストックされていきます。旅 先によってはお土産ももらえたり、特殊な姿のおはなちゃんに出会って交配したりもできます。交配により自分好みの姿のお花ちゃんにカスタマイズしていくことも可能です。

「フラワーゴーウォーク」の考え方は家庭用ゲーム開発と同じ

私はもともとゲームの開発をしていて、プログラミングからゲーム設計・世界観作りやコンセプトメイキングなど、絵を描いたり音楽を作ったりする以外の部分は、全体的にゲーム制作に携わってきました。今回は液晶ゲームですが、PlayStationやNintendo Switch向けのゲームと開発時の思考のプロセスは同じ。近年ではプログラミング教育サービスの開発経験も深く行っているので、体験から学習を考えていくことや、自然な見え方はしつつも独自性の あるものをゼロから作り上げていくことを得意としています。村上さんらしさやおはならしさを大切にして、ゲームをプレイしない方もゲーム好きな方も楽しんで頂けるように製作しました。

ドット絵の表現方法

おはなちゃんの基本デザインは、私が直接ドットを打ちデザインしました。ファミコンやスーパーファミコンの時代のドット絵の良き味わいをおはなちゃんで表現してみたものです。 ゲーム内では、お花ちゃんはいろいろな姿のバリエーションがあります。あえてモノクロ液晶にしたので、表現力は少ないのですが、花びらの色や表情や衣装などのバリエーションを、サブマリンさんが上手に描き分けてくれました。その中でも特に苦労したのは花びらの色。ドットの打ち方によって、顔が膨張したり、縮んで見えたりするので微細な調整が必要でした。通常は携帯デジタル液晶ゲームだと24×24ピクセルの画面で作ることが多いのですが、今回は48×48ピクセルにして、頭と体全体を丁度良いサイズ感で表現できています。ゲーム機のケース形状も花びらの形にして、液晶に顔全体を表示したときにピッタリとハマるようにグレーパーズ・ヒルさんが内部基盤やケース形状を緻密に設計してくださっています。旅の各目的地の背景もサブマリンさんが魅力的に描いてくださっています。48×48ピクセル・2色という表現の制約の中で、個性豊かな100か所の背景が見事に描き分けられています。ぜひ背景のかわいい絵柄にも注目してみてください。ちなみに、おはなちゃんのドット絵の図体は、2022年4月にリリースされた、NFT作品「Murakami.Flowers」の絵柄のベースにもなっています。

保存容量との戦い

家庭用ゲームやスマホだと気にしなくても済む要素ですが、開発ではセーブデータの保存容量との戦いも大変でした。とても小さな画面で表示できる情報量が少ないわりに、コンテンツの中身はかなり複雑で豊富。自然な形で作ってあるので遊んでいると気づかないかもしれないのですが、一般の携帯デジタル液晶ゲームとは比べ物にならないくらいの複雑さを持っているのです。セーブデータの保存可能な容量もとても小さいのですが、そこに何を保存するのかを決めるはとても重要な設計でした。プレイの行動履歴をどのように詰め込めるか。 容量が限られるので、取捨選択が必要だったのですが、絶対的に重視したのがアルバムです。訪問地でその時のおはなちゃんの形状やファッションのままの姿を写真に残していく概念は維持したかった。旅を終えた時に楽しさと寂しさを感じつつ、見返していけるアルバムが本作の一番重要な部分ではないかと考えました。

わかりやすさと体験設計

大人にも子供にも興味を持ってもらえて、直感的にわかりやすく且つ奥行きをもって遊んでもらえるように作りました。「デジタル液晶ゲーム=単純」という一般的なイメージに沿って安易な作りにはしたくなかったので、せっかくならば携帯デジタル液晶ゲームの常識を超えて、世の中で一番良くできた液晶ゲームにしようという意気込みでしっかりと作りこみました。作る側の視点で見ると、実は裏側は相当に複雑で要素の多いつくりになっているのですが、プレイヤーから見ると、とてもシンプルに直感的に見えるように工夫されています。 迷わずにサクサクとプレイできるにもかかわらず、プレイの要素の豊富さや深みをしっかり感じ、おはなちゃんへの愛着も持ってもらえると思います。フラワーゴーウォークではプレイの構成要素が豊富なのにもかかわらず、液晶画面は48×48ドットで表示できる情報量が非常に限られています。その分、チュートリアル(使い方や操作の説明)とインターフェイスのわかりやすさにはしっかりと力を入れました。また、どのくらいの総プレイ時間にし て、目的地の数をいくつにするか、それぞれの目的地に何歩で到着すべきか、どんな順番、どのタイミングでどんな要素が登場するのか、小気味よさとチャレンジのバランスをどう制御するのか、そういったバランス調整も丁寧に行いました。逆にあえてプレイヤーに負担を強いているところもあります。最初にお水をあげて、芽が出て、おはなちゃんが生まれる。水やり作業をがんばって、花になってからやっと冒険が始まるところは、ユーザーにわざと少しだけ手間をかけてもらう部分です。病気を治してもらう病院へはわざわざ他の目的地と同じく歩かせるようにしています。「病人を歩かせるんかい!笑」というツッコミをしてもらうことを想定しています。隅々に楽しんでもらえるような体験設計を散りばめています。また、育成の義務感が強くなりすぎないようにも気を遣っています。おはなちゃんはしばらく放置すれば、しょんぼりしたり枯れかけたりはしますが、完全に枯れてしまったり、居なくなってしまうことはありません。しばらく放置した結 果最初からプレイをしないとならない事態になると、プレイのやる気がなくなってしまうので、その点はゆるやかにしてあります。1ヵ月で旅をコンプリートしてもらってもいいです し、1年がかりでゆっくりプレイしてもらってもいいです。おはなちゃんとの思い出を自分のペースで積み重ねていってほしいと考えています。




ハードウェア制作

グレーパーズ・ヒル

新たな「モノづくり」をコンセプトにした電子応用製品メーカー。1981年に4bitマイコン開発、電子回路設計・販売からスタート。1996年発売の初代たまごっちの開発・生産に携わるなど、玩具をはじめ、雑貨、学校教材、インテリアまで幅広くOEMを中心とした開発・生産を手掛ける。


左から 岡本浩司さん(テクニカルプロデューサー)、浦野武彦さん(代表取締役)、花村純子さん(プロデューサー)

デザインにこだわった設計

今回弊社の一番のミッションは、おはなちゃんのあの顔と花びらのデザインバランスで小さくゲームを設計することだったのではないでしょうか。ご希望を伺いながら何度も調整を重ね、ついにあの形状が完成した時は嬉しかったですね。そこが達成できた次は、ユーザー目線に立った丁寧なモノづくりが大切です。手に持った感触やボタンを押した時の感覚に違和感を感じないようにと、また安心安全に使って頂けるようにと様々な試験を経て、本体からパッケージに至るまで品質の向上に努めました。

世界中のユーザーを意識したモノづくり

今回は世界的アーティストでいらっしゃる村上隆さんの製品ということで、世界中にファンがいらっしゃいます。FLOWER GO WALKが海を超え、様々な環境下で様々な使い方をされるのだろうなとイメージをしながら、丁寧に、安全に、愛情を持ってひとつひとつ美しく作ることを心がけました。 初代たまごっちは世界中で大きなブームとなりましたが、FLOWER GO WALKも早く世界の皆さまに喜んで頂きたいですね。




ソフトウェア制作/パッケージデザイン制作

サブマリン

1972年創業のプランニング&コンサルティング会社。玩具や食品関連のパッケージデザインからスタートし、80年代には「日本サンライズ(現SUNRISE Studio)」とロボットシリーズの企画に参加。近年は玩具の企画・開発の中でも、デジタルゲームやボードゲームなどを多数手掛ける。


左から 堀池見奈さん(ディレクター)、鈴木俊一さん(クリエイティブ・ディレクター)

ユーザーファースト仕様

ある意味、玩具の限界にチャレンジした商品です。解像度の小さいゲームながら容量、表現能力、ドット数など、すべてにおいて妥協せずに作り上げていきました。ユーザーファーストでどんな方が触っても、取扱説明書を見ずにスムーズに進んでいくことを目指しています。また遊ぶ度に、その先がどんどん開示されていく仕様は、プロデューサー橋本善久さんがこだわられた部分で、今までの液晶玩具にはない新しさです。

ドット絵で表現するアート作品

ゲームコンセプトから、実際のプログラムに落とし込むコーディネイト、デザイン、パッケージなど全般を手掛けました。一番気を使ったのが、限られたドット数の中で村上隆さんの「おはなちゃん」というキャラクターをゲームの世界観に落とし込む部分でしたが、最終的に玩具っぽさやノスタルジックさを表現することができたと思います。さらに100カ所ある目的地をどうリアルに描くかにもこだわりました。実は映画館の中の絵は、村上隆さんに描いて頂いたドット絵をそのまま使用しているんです。是非見てみてください! 液晶玩具というフォーマットによって、ユーザーはゲームを通じて「おはなちゃん」との体験を双方向で楽しめるようになりました。ゲーム要素を取り込むことによるアート拡張の余地と可能性はまだまだあると感じています。

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